小規模事業所はやっぱり必要
このままでは小規模事業所が無くなります。
これまでの記事の中で、従来型の訪問介護事業所がピンチであることを述べてきました。
2024年度の介護報酬改定は『大規模事業所優遇・小規模事業所冷遇』と言われています。
ここでの大規模事業所というのは『併設施設内へ派遣する訪問介護事業所』のことをいいます。
どんなに企業が大きくても、利用者の自宅へ一軒一軒移動しながら出向く訪問介護事業は従来型訪問介護と解釈していいです。
移動で効率が悪くなる従来型訪問介護がピンチなのです。
従来型は今までも利益が0~マイナスの事業所が殆どです。
住宅併設型と従来型の訪問介護事業所合わせると、実に40%を超える事業所が赤字です。
しかし実際には、従来型訪問介護事業所の殆どが赤字事業所で、住宅併設型訪問介護事業の殆どが大幅黒字経営となっております。
2024年3月時点で訪問介護事業所が全国で20,618事業所あり、サ高住が9500棟程あります。
サ高住には訪問介護事業所が必ず併設されていると考えると、1/2の事業所がサ高住を併設しているということです。
ざっくり計算すると従来型が11,000事業所、併設型が9500事業所です。
赤字事業所が40%ということは、20618✕0.4=8247事業所が赤字事業所。
サ高住は普通に考えて黒字ですので、赤字は全て従来型事業所と仮定すると、
8247÷11,000=0.749・・・つまり、従来型事業所の75%が赤字ということです。
日本全国の訪問介護事業所の半数を占める従来型訪問介護事業所の3/4が赤字経営の中、そこにマイナス改定が直撃したのです。
赤字にマイナス改定(収入は減る)なのに、国は毎年2%以上の賃上げを今後3年間実施させようとしています。
これでは訪問介護事業の維持ができなくなると判断する事業所はたくさんいるでしょう。
心が折れてしまった経営者も相当いるはずです。
データからサ高住の利益率を計算してみよう。
訪問介護の利益率が7.8%ですが、従来型の訪問介護事業所は基本的に赤字です。
従来型の訪問介護の利益率を-2%と仮定して、サ高住の平均利益率を算出してみましょう。
- 従来型訪問介護事業所の数: 11,000
- サービス付き高齢者向け住宅併設型訪問介護事業所の数: 9,500
- 全訪問介護事業所数:20,500
- 従来型訪問介護事業所の利益率: -2%
- 全体の利益率: 7.8%
サービス付き高齢者向け住宅併設型訪問介護事業所の利益率を p% とすると、全体の利益率 R% は次のように表されます:
R=【(従来型事業所数✕従来型の利益率)÷全事業所数】+【(サ高住型事業所の数✕P%)÷全事業所数】
この式に具体的な数値を代入します:
R=7.8%=(11,000×−2%)÷20,500+(9,500×𝑝%)÷20,500
⇒7.8%✕20500=(11,000×−2%)+(9,500×p%)
⇒7.8%×20,500=−22,000+9,500𝑝
⇒159,900=9,500𝑝−22,000
⇒181,900=9,500𝑝
⇒𝑝=181,900÷9,500
⇒p=19.15
これを計算すると、サービス付き高齢者向け住宅併設型訪問介護事業所の利益率は約19.15%ということになります。
この利益率で、全体の訪問介護事業所の利益率が7.8%となります。
サ高住の利益率が19.15%、従来型訪問介護の利益率が-2%で合計すると訪問介護の平均利益率が7.8%になるということです。
ただ、普通に考えてサ高住の利益率が平均20%しか無いわけがありません。同じような経費の基準で考えると恐らく40~50%は利益があります。そう考えると、従来型の利益率は平均マイナス2%どころではありません。-10%~20%なんてことも考えられるのです。この全く違う利益率の事業を一律で計算しサ高住の利益率を低く見せているているのは、サ高住優遇以外の何物でもありません。
国が目指す未来
訪問介護事業所の現状と課題
-鍵となる事業所規模の拡大に向けて-日本総研
ここでも述べられている通り、訪問介護事業と訪問介護士の効率的運用を目指すためにも、国は事業所の大型化と小規模事業所の統廃合が合理的なのは間違いありません。
また、介護が必要になった場合は、居住地域の近くにあるサービス付き高齢者向け住宅への引っ越しを『是』とする考え方をしているのです。
これは、住み慣れた家で訪問介護を受けながら生活を続けるということが『非』とされ悪者扱いされる未来が来るということです。
現在、在宅扱いの要介護者の30%が高齢者向け住宅に移住しているとのこと。この割合を上げることを国は目指しています。
2017から2025年まで予測データでは
2017年 | 2020年 | 2025年 | |
訪問介護 | 110万人 (従来型87万人+併設型23万人) | 122万人 (従来型94万人+併設型28万人) | 138万人 (従来型102万人+併設型32万人) |
サ高住等 | 23万人 | 28万人 | 32万人 |
施設 | 94万人 | 105万人 | 121万人 |
もっと多くの要介護者に効率的にケアを提供できるようにするには為に、高齢者向け住宅でのサービス提供を加速する必要があるのです。
そのためには『住み慣れた家では介護を受けることができない状態を作る』必要があります。
その地で暮らす高齢者へ向けた細やかなサービスを実施する小規模事業所の存在は国からすれば今となっては邪魔なのです。
小規模事業所を潰せば利用者宅を一軒一軒訪問する事業所が無くなり、そうなれば要介護状態になれば引っ越ししなければ介護を受けることができない未来が実現できます。
これにより『訪問介護士の効率を最大化させる』事ができます。
そして、小規模事業所が淘汰され、サ高住の利益率が跳ね上がった所で、『利益率2%になるように削減する』つもりでしょう。
2024年の介護報酬改定では、サ高住を含めた訪問介護事業の利益率が7.8%となって「儲けすぎだから下げた」と言っているのです。サ高住だらけになればこの利益率は恐らく20%を軽く超えます。他の介護系サービスが2%で推移しているのに、「20%の利益が残るのは異常です」ということで堂々と介護報酬改定で下げることが出来るのです。
職員にボーナスなど払って色々経費を使っても20%以上利益が残ってしまっていたものが、一気に利益を削られたら、当然職員のボーナスもカットされます。
サ高住の職員は今の水準で給料を得続けることはできません。
そうなれば、国としては『安い金額で訪問介護士を限界まで効率的に使える』のです。
少ない介護士でより多くの高齢者を見て、お金も安く済むのですから、国としてはメリットが大きいと言えます。
それでも小規模事業所は必要です
国の目論見からは外れますが、小規模事業所はやはり必要です。
特に『親と同居している人にとって必要不可欠』と思います。
どこの市町村にも『親と同居している人』は居ます。
・家を守るため
・家を出る機会が無かった
・親の年金をあてにしなきゃいけない
・親の年金が少なすぎて同居してあげないと親が生活できない
・親が大切
他にも本当に様々な理由があります。親も自分も十分にお金を持っている状態で同居している人も居ますが、貧しさから同居せざるを得ない家もあります。
同居する親が要介護状態となったとき、お金があればサ高住などに移り住んでもらえば良いだけですが、貧しさから同居せざるを得ない家庭は本当に悲惨なことになりかねません。
転倒や骨折、急な容態の悪化などにより
『明日から、息子が母親の排便の処理をし続ける』なんてことが現実問題として起こるのです。
今日から親の介護が必要になったとして、すぐに介護出来るのは介護士くらいのものです。
ほとんどの人は、何をどうすればよいのかわからないです。
実体験ですが、仕事を持っている息子さんと、いきなり寝たきりになった母親が同居する家庭がありました。
・おむつが必要?どうやって替えるの?
・誰に相談すりゃいいの?
・ご飯どうしよう?
・仕事あるんだけど放っておいていいかな?
・お風呂どうしよう?
・着替えどうしよう?
・自分(要介護者本人)でやってくれるかな?
・布団汚れたけどどうしよう・・・
とわからないことだらけになって、結局1ヶ月近く何も手を付けないなんてこともありました。
布団が汚れたら上に布団を重ねてそのうえで寝てもらい、更に汚れたらまた布団を重ねるを繰り返し、親の枕元におにぎりとお茶を置いて仕事に出続けたのです。
どうすればいいか困り果てて最終的に地域包括に相談され、包括から依頼を受けた私が初訪問時には、母親は何重にも重ねた便汚染された布団の上で横になり、介助なしでは食事も食べられないような状態にもかかわらず枕元に半分腐ったコンビニおにぎりとお茶が置かれただけで、衣類は便汚染だらけでした。
その息子さん悪意を持ってやっていたのではないのです。純粋にどうして良いのかわからなかったのです。
こういったとき、在宅に訪問してくれる従来型訪問介護事業所があれば、訪問介護士が来てくれます。
部屋を片付け、生活が出来るようにしてくれるのです。介護に関するアドバイスも受けることができます。
また、プロの介護士のケアのやり方を見ることで、家族さんもケアが上達します。
他には、父親と娘、母親と息子などのように異性の親子の場合や、義父や義母が要介護になった場合なども、どうしても排泄介助や入浴介助などの身体的ケアは気が引けます。プロの介護士の自分(男)ですら自分の母親の排泄介助を毎日し続けると考えると滅入ります。考えたくありません。私から見てそうなのですから母親からしても自分の息子に排便処理をしてほしいとは思わないでしょう。その部分だけでも他人の介護士に依頼することができれば助かると思うのです。
介護が必要になったら訪問介護士に頼めるという状況は、親と同居生活を送る人には安心感をもたらしてくれます。
逆に、従来型訪問介護事業所が淘汰された未来では、親との同居はリスクが大きすぎます。
離れて暮らす兄弟姉妹からは『同居している人がみるのが当たり前』と思われるでしょうし、手助けは望めません。いままでであれば離れて暮らす家族からお金だけでも支援してもらい、その費用で訪問介護士に来てもらってなんとかすることができたとしても、訪問介護士が居ない地域では離れて暮らす家族は何も出来ないのです。そうなると仕事を辞めなければならないかもしれません。親と同居する事で介護負担が全面的に自分に降り掛かってくるとなると、親と同居する人は今以上に少なくなるでしょうね。
早く親元を離れ関係性を絶った人ほど得することになります。
また、サ高住を運営している企業も対岸の火事ではありません。
従来型事業所が淘汰されたほうがサ高住にくる利用者が増えるからメリットが大きいように思えますが、
地域の従来型訪問介護事業所が淘汰された後は、同一建物減算拡大が待っており、当然今のような給与水準を維持することはできなくなります。
小規模事業所を淘汰が進めば進むほど、サ高住のへの減算が大きくなります。
介護士にとっても、連続でケアをし続ける施設やサ高住しか働く場所がなくなれば、体を壊す確率は上がります。
体力がなければ働けない仕事になるため、高齢ヘルパーや無理の出来ない介護士のの働ける職場が一気に無くなり、多くの介護士が他業種へ移ります。
平均年齢は下がり、介護士の数そのものが激減することとなります。
少なくなった介護士で今より多くの高齢者をみるのですから、介護士の負担はますます増えることになります。
高齢者から見ても、その家族から見ても、サ高住から見ても、業界全体から見ても従来型訪問介護事業所は存在しないと困るのです。
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