従来型訪問介護事業が生き残るには
介護業界は毎年様々な改定や試みがされており、介護保険成立時から比べて随分と変わってきました。
今年、訪問介護の基本単価が下がるという驚きの改定がなされました。
原因は『利益率が高いから』とのことです。
実は、訪問介護事業所の利益率が急に上がった理由は『サービス付き高齢者住宅』などの住宅併設型訪問介護事業の影響が大きいです。
本来の訪問介護は『事業所から利用者宅へ移動→ケアを行う→移動→ケア→移動』といった具合に移動が入ってきます。ケアとケアの時間があくこともあれば、移動に20kmかかることも普通にあります。そのため、ガソリン代、移動時の人件費、待機時間の人件費等を考慮した金額設定がされているのですが、移動距離が遠くなりがちな地方に行けば行くほど訪問可能件数が減るため、人件費率が高まることになります。地方都市ですら人件費率が80%を超え、2割近い経費を考慮すると、純利はせいぜい0~2%。実際多くは赤字経営です。
ところが、住宅併設型訪問介護事業であれば、同一施設内で移動距離&時間0、待機時間0で次々とケアを行うことが出来ます。最高効率でヘルパーを稼働させることができるため、同じ労働時間で倍以上の売上を叩き出すことが出来ます。人件費率も40%程で済み、純利益率が40%~50%になるのです。
従来型と住宅併設型を同じ『訪問介護』として算定するため訪問介護の平均利益率が7.8%という高水準になってしまったのです。
赤字事業所にとって値下げは『倒産』を意味する程の大問題です。
そんなピンチに直面する従来型訪問介護事業所が生き残るには、様々な経営努力が求められます。
政府はなぜ値下げに踏み切ったのか?
政府が値下げに踏み切った理由はいくつか考えられます。
①利益率が高いから
②小規模事業者を潰したいから
③事業所数を減らして市町村の管理業務を減らしたい
④少ない介護士で多くの高齢者のケアをさせたい
⑤過疎地から人を無くしたい
これらが考えられると思います。①は前述した通り、利益率を介護業界全体で均一化したかったということです。②は小さい事業所をへらして大きな事業所ばかりになれば、様々な面で効率的な運用ができるという効果があります。事業所を管理する市町村から見ても、1000人の高齢者を20事業所が関わるより、1事業所が全ての高齢者のケアを担当してくれたほうが管理は楽です。実地指導や監査を1回すれば済むからです。
また、訪問介護はその性質上介護士が多ければ多いほど、利用者が多ければ多いほど効率的な巡回コースが見えてきます。
大型事業所に有利な形をつくり、小さな事業所を潰す。これが訪問介護の効率を高める方法なのは間違いありません。
介護士不足の深刻な状況を考えると、ケアが必要な人間が地域に点在するより、一箇所に集まってもらいそこで重点的にケアを行うほうが『少ない介護士で多くの要介護者をケアできる』のです。これは介護に限った話ではなく、コンパクトシティ構想で地方都市がやろうとしている政策に通じるものがあります。限られた資源を効率的に運用しようと思えばこの考え方は正解です。過疎地から人がいなくなれば、その地域のインフラを止めてしまっても問題ないのです。道路が塞がっても開通する工事すら必要ありません。
市の中心部で発展させると決めたエリアだけに集中的に資本を投下し、その近隣エリアで快適に暮らせるようにすることが効率的な社会ということです。
資本力のある会社は最初からサービス付き高齢者向け住宅を作ります。利益率が0~2%の従来型の訪問介護サービスをするより、純利益率40~50%の高齢者向け住宅併設型を作ったほうが確実に儲かるからです。サービス付き高齢者向け住宅では、その中のケアだけで介護士は手一杯であり、併設施設外へ派遣できる介護士も居ない状態ですし、仮に介護士が居たとしても移動やガソリン代や車両維持費のかかる外部の要介護者宅へ出向くのは効率を著しく悪化させますので、出来たら派遣したくないでしょう。
そうなってくると、要介護状態になりケアを受けたければ高齢者向け住宅へ引っ越しする以外に手が無くなります。
その状態で高齢化の激しい限界集落などの方が要介護状態になると、その人は施設やサ高住へ引っ越しとなります。一気にその地域は人がどんどんいなくなります。
やがて道路含めインフラ関係も後回しにされてしまい、そのエリアは切り捨てられることになります。
その分浮いたコストを中央に集めることが出来るため、国や市町村としては限界集落や過疎地などから早く人がいなくなることはメリットが大きいです。
要介護者を地域から切り離す事でコンパクトシティ構想の実現が早まるのは間違いないのです。
小さい事業所の必要性
先述の通り、大きな資本のある事業所はサービス付き高齢者向け住宅を最初から作りそこに事業所を併設し、集合住宅外にはヘルパーを派遣しなく(人手が足りなくて派遣できなく)なります。逆に、施設やサ高住を設立できない小さな事業所は、効率が悪くて利益率が低くても従来型の訪問介護サービスを行うしかありません。
小さな事業所が従来の訪問介護サービスの最後の砦とも言えます。
また、小さな事業所とはいえ、そこには『独立心の強い、理想を描いて追い求めている人間が居る』のです。
どうすればいいのか?どうすればもっと良くなるのか?どうすれば上手くやれるのか?常にそういう事を考え、人生をかけてチャレンジする精神がある人が必ず居るのです。
仮に、その地域に大きな事業所しか存在せず、自分の夢や理想に向かってチャレンジする介護士が全く居ないという状況になったとすれば、それは寂しいことだと思います。
私は、介護の世界に自分なりの理想を掲げ、それを実現するために行動できる人が次々と現れる方が良いと思っています。
それが結果として従来型の訪問介護サービスを存続させ『住み慣れた家で介護を受けることができる未来』につながると思っています。
小さい事業所の目指す方向性
小さい事業所は大きい事業所を同じ土俵に立つわけにはいきません。どう考えても不利です。
例えば、サービス付き高齢者向け住宅とヘルパーの取り合いをしても絶対に勝てません。サ高住は現場人件費率40%であるのに対し、従来型は80%です。純利に至っては数十倍の差があるため、サ高住に大金を積まれた時点で100%勝てるわけがありません。職員採用に90万円かかったとすれば、サ高住であればその雇ったヘルパー一人の売上から生み出す利益の2ヶ月でペイできますが、従来型事業所にとっての90万円は事業所全体の年間の純利益に相当する金額だったりします。
ですから、絶対に同じ土俵で戦うと負けます。
『併設型の訪問介護事業所がやらないことをやる』コレに尽きるように思います。
サ高住の戦い方
サ高住を併設するような大きな訪問介護事業所の戦い方は
・拡大を考える
・大きな資本を投資して箱を作る
・常勤介護士(1日8時間働ける人)を雇う
・高い給与を求めている人を雇う
・体力のある介護士を雇う
・人材獲得にお金をかける
・併設施設内を優先して派遣する(極力外に派遣しない)
小さな事業所で生き残るには
小さな事業所が従来型訪問介護で利益を出して生き残るには、
・縮小を考える
・とにかく初期費用や固定費を下げる
・非常勤の人件費率を上げる
・副業などスポット的に働ける非常勤介護士を雇う
・無理せず稼ぎたい人を雇う
・採用にお金をかけない
・経営者、管理者やサ責も現場にどんどん出る
・移動距離の問題を少しでも解消する
これらを徹底するしかありません。
資本力のある企業が資本を投下しサ高住を次々と建てている中、同じ方向を目指しても厳しい戦いになります。
とにかく逆を目指さねばなりません。
従来型の訪問介護事業は小ささを目指す方が生き残る確率は高まります。
『経費を減らし赤字部門を縮小し、人件費率を限界まで高める戦い方』が正解です。
『現場以外に回せるお金は無い』といって過言ではありません。
また、社長といえど現場に出なければ給料は殆どとれません。管理者もサ責も社長も腹をくくって現場で働き続ける覚悟が必要です。
つまり、「私は管理者になったら現場へは行きません」とか「サ責は現場には行かず待機しておくものです」という職員を管理者やサ責に任命できません。
とはいえ、代表自身が管理者サービス提供責任者になり、なおかつ自分が現場にガンガン出る覚悟を決めると、ちょっとやそっとでは倒れない会社を作ることが出来ます。損益分岐点が物凄く下がるため、早期に軌道に乗せることが可能になります。また、法人代表であれば時間外労働の制約から外れるため、ある程度自分が我武者羅に働くことで、少ない人員でも目標売上に早く到達することは可能ですし、お客様に自分のファンになってもらう事で会社の評判をダイレクトに上げることも出来るなど、メリットが大きいです。
また、自分が現場で働かない組織を作ろうとするとどうしても現場から搾取する組織にならざるを得なくなります。そうなるとヘルパーの賃金を低く設定する事となり、人員確保に苦労する羽目になります。求人や人材紹介にかける費用は事業所にとってもそこで働く介護士にとっても全く得にならない費用です。人材募集にお金をかけるのであれば、高めの給与設定や、大きな事業所では出せない魅力をアピールすることで人を募ったほうが良いです。