2024年度からの介護職員等処遇改善加算

処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算が一本化され、新しく『介護職員処遇改善加算』になります
この加算が今までの加算と大きく違うのは『』が付くことにより、現場介護士以外の職種への処遇改善に使うことができるという点です。
例えば事務員やエリアマネージャーのような『明らかに介護事業の役に立っているのに処遇改善対象外だった人』への配分が可能になっています。

処遇改善の歴史

介護士の処遇(給与)を改善するための加算としてこれまで
①処遇改善加算(常勤月額3.7万円アップ)
②特定処遇改善加算(ベテラン月額8万円アップ)
③ベースアップ加算(常勤月額9千円アップ)
の3つの加算が作られてきました。

単純計算では、
常勤職員は平均46,000円アップ。
ベテラン介護士に至っては46,000+80,000=126,000円/月アップになります。

今までの処遇改善加算の問題点

①事務作業が増えすぎた
加算を取得するまでの流れは、流れとして、それぞれの加算に対し『個別に計画を立て、個別に実績を集計し、個別に報告をする』ので、事務の手間、書類もそれぞれに必要となっていました。提出する方も大変なのですが、それをチェックする市町村側も大変です。
そのため、一本化して手間と時間と書類を削減することを狙ったと思われます。

②加算は受給額を下回らない形で(受給額を超える額を)分配する必要がある。
このルールにより、それぞれの加算毎に受給額より少し多く配分することになります。
例えば、加算分が100万円あったとすれば、5万円ほど多めに配分する事になり、3つの加算でそれぞれ5万円分多めに支給するとなると、実際には合計15万円会社の利益を削ることになります。このように、加算の種類が増えれば増えるほど会社の利益が削り取られる構造であったため、会社の利益という観点から見れば加算はマイナスに働いていました
1本化することで、全部合わせて5万円多めに支給するような形にすれば良いのであれば、会社としてのデメリットは減ります。

③今までの処遇改善加算は全て現場介護士の給与へ充てる必要がある。
そのため同じ会社で働いていたとしても、事務員、ケアマネ、現場に出ていない管理者やエリアマネージャー、現場に出ていないサービス提供責任者等には一切分配できませんでした。
これにより、職員の中で不公平感が強まったのは間違いありません。

例えば、同じ介護業界においてケアマネジャーの在籍する『居宅介護支援』においては今まで処遇改善は一切されていません。
本来上級職種のケアマネを差し置いて、現場介護士のみの給与が上がり続けた為、給与の逆転現象が起こってしまう事業所も沢山あります。
『頑張って勉強し、難関試験を突破し、資格を得て、ケアマネにステップアップして、給与が下がる』これでは勉強してケアマネを目指す気が失せます。
また、現場介護士からスキルアップしてサービス提供責任者になり書類仕事ばかりに追われて現場での直接介護業務が無くなったり、管理者として現場を離れて事務や教育や監督する立場になった場合も対象から外れます。とにかく現場介護士にしか配分できないのが処遇改善加算でした。
『努力とスキルアップを重ね、職責と業務が増え、給与が下がる』なんてことが起こり得るのです。
国は『スキルアップをさせましょう』『給与に差をつけて上を目指す仕組みを作りましょう』『職責に応じて昇給する仕組みを作りましょう』と介護士の意欲を引き出し、キャリアを積む事のできる役職の多い大きな会社を目指すことを推進しているのですが、スキルアップして上に上がれば上がるほど現場から離れ、処遇改善加算の対象から外れることにより給与が下がるのでは本末転倒です。
現場以外の職員へも分配できるようになることで『介護事業の役に立っている職員』皆に恩恵が生まれ、組織として一体感が生まれます

このように、処遇改善加算は『事務を増やす』『会社の利益を削る』『現場に不公平感と軋轢をもたらす』『大きな会社の昇給システムに合わない』等の問題が多い加算でもありました。それらを改善するための1本化だと思われます。

今後の介護業界を見据えた改正

今の介護業界の最大の問題は『人手不足』です。
介護業界全体で求人倍率4倍。こと訪問介護に関しては16倍と言われ、1人の求人を16社が狙っているという状態です。

そのため、将来的には『少ない介護士で多くの利用者のケアに当たる』必要が出てきます。
訪問介護のように利用者と利用者の間に移動が入ると、効率が非常に悪くなるため、この効率を上げる方法として
『高齢者を1箇所に集めることで移動時間を無くす』つまり、サ高住や施設のような集合住宅型介護形態が主流となると思われます。
国はサ高住の建設に補助金を出すなどして積極的に増やそうとしています。
サ高住などでは、訪問介護事業で最大のネックである移動とそれに伴う時間、待機時間も全て0のため、非常に効率的に多くの利用者のケアが出来ます。
一軒一軒移動する従来型と比べ、同じ労働時間で一人の介護士が2倍のケアの量をこなせてしまうのです。
また、2倍のケアをこなせるにも関わらず、移動や待機時間を考慮して設定されている訪問介護の金額を受け取れるため、移動や待機時間分はそのまま企業の利益となり、利益率が40%~50%と、とても高くなります。この高い利益により資金的に余裕ができるため、給与を高く設定できる。求人にお金を賭けることが出来る。さらなる事業投資が出来る等が可能となり、法人がどんどんと大規模化します。

このように国は大規模事業所を優遇する政策により、スケールメリットによる介護の効率化を目指していると思われます。

大きな組織であればあるほど、現場から離れ管理側・運営側・教育側として働く事になるポジションが生まれますし、そこに配属される人は優秀な人材です。
しかし今までの加算では現場介護士でなくなった瞬間から処遇改善の対象外でした。
優秀な人がその能力に応じた役職へステップアップし、給与に反映される仕組みを作るためにも、現場介護士のみに算定できるという形は変える必要が出てきたのだと思われます。
処遇改善の分配ルールを柔軟にし、現場介護士以外にも分配可能としたのが介護職員処遇改善加算です。
これにより、事業所をより良くするために頑張っている職員に広く配分できるようになるため、ステップアップによる確実な昇給、事業所内での不公平感の低下が期待できます。

介護職員処遇改善加算の要件

介護職員等処遇改善加算は(I)~(IV)に分かれ、サービス別に4段階の加算率が定められ、各事業所は月額の総請求単位数にこの加算率を掛けて請求ができる仕組みです。

加算率が最も低いのが(IV)で、「加算率の1/2以上を月額賃金で配分」「職場環境の改善(職場環境等要件)」「賃金体系等の整備及び研修の実施等」を算定要件としています。

(III)は(IV)の算定要件に加え、「資格や勤続年数等に応じた昇給の仕組みの整備」が算定要件に加わります。

(II)は(III)の算定要件に加え、「改善後の賃金年額440万円以上が1人以上」「職場環境の更なる改善、見える化」、

(I)では(II)の算定要件に「経験技能のある介護職員を事業所内で一定割合以上配置」が、それぞれ算定要件として追加されます。また、事業所内での柔軟な職種間配分が認められています。

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