2024年度訪問介護報酬改定で上がったのか検証
2024年は3年に一度の介護報酬改定がありました。
厚生労働大臣が言うには「訪問介護は基本単位は下がったけど処遇改善加算として2.1%アップしたから、実質プラスだ」とのこと。
本当でしょうか?
では、その中身を見ていきましょう。
2024年度の改定では『処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ加算』の3つの加算が1つに纏められました。
新しい処遇改善の加算率はこのようになります。
処遇改善等加算 | 加算率 |
Ⅰ | 24.5% |
Ⅱ | 22.4% |
Ⅲ | 18.2% |
Ⅳ | 14.5% |
では、以前はどうだったかを見てみましょう
処遇改善 | 特定処遇改善 | ベースアップ | 合計 | |
Ⅰ | 13.7% | 6.3% | 2.4% | 22.4% |
Ⅱ | 10% | 4.2% | 2.4% | 16.6% |
Ⅲ | 5.5% | 2.4% | 7.9% | |
Ⅳ | 2.4% | 2.4% |
確かに新旧の処遇改善加算Ⅰ取得事業所を比べてみると、処遇改善加算率は2.1%アップしています。
実は多くの事業所が加算Ⅰ→Ⅱに下がる
処遇改善加算Ⅰを取得していた事業所が、続けて処遇改善等加算Ⅰを取得できるかについてですが、ここに大きな罠があります。
実は『処遇改善等加算Ⅰを取得するには、特定事業所加算のⅠかⅡを取得する必要がある』のです。
つまり、特定事業所加算ⅠかⅡを取得していない事業所は、問答無用で処遇改善等加算Ⅱまでしか取得できません。
そのため、多くの事業所が処遇改善加算Ⅰから処遇改善等加算Ⅱへとランクが下がります。
以前の処遇改善加算Ⅰ取得事業所は3つの加算の合計が22.4%です。
2024年度の報酬改定による処遇改善等加算Ⅱの加算率は22.4%です。
つまり、特定事業所加算を取得していない事業所は全く処遇改善加算がアップしていないということです。
では、どれくらいの事業所が加算1を取得しているのかと言うと、2024年4月時点のデータでは以下のようになります。
加算Ⅰ取得率 | ||
2023年度 | 75.2% | |
2024年度 | 37.1% |
この図を見れば分かる通り、2.1%のベースアップの恩恵を受けられる事業所は37%だけで、残り60%以上の事業所は全く処遇改善加算アップの恩恵が受けられないのです。
訪問介護の基本報酬が-2.3%の引き下げ。新たな単位数は?
2024年4月1日から訪問介護サービスにおける基本報酬は以下のように変更されるました。
単位数の減少率は2~3%程度と非常に高く、訪問介護事業者には大きな影響があると考えられます。
【身体介護】
区分 | 現行の単位数 (単位) | 改定後の単位数 (単位) | 減少率 (%) |
20分未満 | 167 | 163 | 2.4 |
20分以上30分未満 | 250 | 244 | 2.4 |
30分以上1時間未満 | 396 | 387 | 2.3 |
1時間以上1.5時間未満 | 579 | 567 | 2.1 |
以降30分を増すごとに算定 | 84 | 82 | 2.4 |
【生活援助】
区分 | 現行の単位数 (単位) | 改定後の単位数 (単位) | 減少率 (%) |
20分以上45分未満 | 183 | 179 | 2.2 |
45分以上 | 225 | 220 | 2.2 |
身体介護に引き続き 生活援助をおこなった場合 | 67 | 65 | 3.0 |
物価上昇率からみる正しい改定率
日本銀行の予想は以下のようになります
『 物価の先行きを展望すると、消費者物価(除く生鮮食品)の前年比は、2024 年度に2%台後半となったあと、2025 年度および2026 年度は、概ね2%程度で推移すると予想される。既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、2025 年度にかけては、このところの原油価格上昇の影響や政府による経済対策の反動が前年比を押し上げる方向に作用すると考えられる。』とのこと
つまり日本全国の物価の上昇は、2024年は2.5~2.9%、2025年は2%、2026年は2%となるそうです。
物価上昇率を見越した賃金アップを望むのであれば、2023年度を100とし、2023年度は最小値の2.5%の上昇とするなら、
2024年は100✕1.025=102.5
2025年は102.5✕1.02=104.55
2026年は104.55✕1.02=106.641
となります。
3年後まで報酬改定は行わないのであれば、2025年を中間値と考え、現状と比べて最低4%の介護報酬改定を行わなければ他業種との差はますます広がります。4%の賃上げがなされなければ、物価上昇に全くついていけない(暮らしは貧しくなる)ということです。
国が事業所に求めるもの
国は事業所にさらなる処遇改善を求めております。
具体的には『2024年度は2.5%のベースアップ、2025年度は更に2%のベースアップを実現しろ』と言っています。
これは、2023年を100とするなら、
2024年は100✕1.025=102.5
2025年は102.5✕1.02=104.55
となります。要するに、2年後には4.55%の賃上げを実現しろと言っているのです。
そして「そのために処遇改善加算をアップさせただろ」と言い張っているのです。
「来年は追加でベースアップ加算をするんでしょ?」
「年度途中でベースアップ加算したんだから今回もヤルでしょ」
と思われる方もいるかも知れませんが甘いです。少なくとも来年度いっぱいまではベースアップはされません。
根拠は2024年度の処遇改善等加算の提出書類の中に『来年度への持ち越し分』という項目があるからです。
2024年度は2.5%アップさせて、2025年度は2%の賃金アップが実現できるように、「事業所内で20%程お金を留保して、来年度に持ち越して来年度で使っていいよ」という事のようです。今までの処遇改善加算は『年度中に使い切れ』というものでしたから、持ち越しをはじめから想定されているということは、「2025年のベースアップ分は2024年に多めに支払ってやってるんだから、それを上手く使えよ。国は多めに払ったからな」という事なのです。そう考えると、よほどのことが無い限りベースアップ加算が追加されることはないということです。
ここまでのまとめ
・特定事業所加算を取得していない等で、60%以上の事業所は処遇改善加算が全く上がらない
・訪問介護は基本報酬-2.3%のマイナス改定
・処遇改善等加算Ⅰの訪問介護事業所ですら、『2.1-2.3=-0.2%』のマイナス改定
・物価上昇率は3年後には今より6%以上UP
・国は介護士の給与を毎年2%以上UPさせるよう事業所に命令している
平野 耕一路の感想
2024年の介護報酬改定は、従来型の訪問介護事業所(利用者宅へ一軒一軒移動するタイプの訪問介護事業所)に潰れろと言っているに等しい改定なのは間違いありません。従来型訪問介護事業所は、8時間労働のうち、移動時間や待機時間がが平均2.5時間あり、訪問可能件数が5件程。売上は16,500程。介護士の人件費に約70%、ガソリン代や車両費に10%、事務所経費が20%で利益0の事業所が殆どです。また、多くの事業所が特定事業所加算を取得していません。『それは貧しい利用者が沢山いるから』という面もあります。サ高住に住めるようなお金のある人ではなく、本当にお金のない貧しい利用者さんが在宅には沢山いるため、事業所は利用者の負担を少しでも減らせるように事業所加算を取得していない事も多いです。利益0とか赤字経営の中で在宅生活を支えてきた従来型訪問介護事業所は、マイナス2.3%がダイレクトに響きます。また、車や交通機関を必要としない併設型訪問介護とは違い、車両やガソリン代の高騰の影響をもろに受けます。
マイナス改定+物価上昇+職員の給与アップのトリプルパンチで事業所は赤字必至です。
国は、従来型訪問介護事業所と、サービス付き高齢者向け住宅併設型事業所を別物として、実情にあう賃金改定をしてほしかったです。
とはいえ、官僚含め相当頭の良い人達が決めたことですので、『無知で』とか『バカだから』とは思えません。
『知っててワザとやった』だけのこと。
従来型訪問介護事業所を潰すことが国の狙いであり望みということです。
ぶっちゃけると、私がサ高住経営者ならサ高住外のヘルパー派遣はしたくありません。
そして殆どのサ高住経営者がそう考えて居たはずですし、今後はその傾向がより強くなります。
するメリットがないからです。たとえ同一建物減算が現状の10%(15%)から40%くらいに拡大しても、一軒一軒訪問するケアよりよほど効率的に稼げるからです。
一軒一軒訪問するケアは利益0であり、売上も半減し貴重な介護士を非効率に使うことになります。
それでも地域貢献としてやってきた事業所もありましたが、2024年マイナス改定になったことで0どころかマイナスが確定しちゃったんです。
だったら売上2倍で利益数十倍になるサ高住内に人員を使います。
売上2倍ということは、処遇改善加算も2倍もらえるんです。職員の給料も上げられますので国に対しても職員に対しても良い顔ができます。
あらゆる面で凄い差が出ます。
しかし日本中で従来型訪問介護事業所が潰れた先にあるのは、介護難民問題です。
在宅に来てくれるヘルパーが居ないので、サ高住に入れないような貧しい人は訪問介護が受けられません。
親をサ高住にいれることができない場合は自分が仕事を辞めてでも親の介護をしなければならなくなります。
『将来日本では金持ちしか介護を受けられない』と言われるのはそういうことです。